日本経済の羅針盤?建設業者数から読み解く財政と許可制度の深い関係
日本の景気を語る上で、建設業界の動向は欠かせない指標の一つです。ニュースで公共事業の予算が報じられると、それがまるで経済全体の先行指標のように扱われることも少なくありません。
今回は、建設業を営むために不可欠な「建設業許可」という制度を切り口に、日本の財政や経済の動向が建設業者の数にどう影響を与えているのか、そしてその背後で業界の健全性を支える「建設業法」の役割について掘り下げていきます。
なぜ建設業に「許可」が必要なのか?
そもそも、なぜ建設業を営むのに「許可」が必要なのでしょうか。それは、建設業法が掲げる目的と深く関わっています。建設業法は、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進することで、最終的に公共の福祉を増進させることを目指しています。
私たちが日々利用する道路や橋、住居やオフィスビルといった社会基盤は、一度作られると長期間にわたって多くの人々の生活や安全に影響を与えます。そのため、工事を請け負う事業者には、一定の技術力や経営能力、そして誠実さが求められるのです。建設業許可制度は、こうした資質を持つ事業者を選別し、業界全体の信頼性を担保するための重要な仕組みと言えるでしょう。
全ての業者が許可持ちではない?「建設業者数」のウラ側
「建設業を営む者」のすべてが、建設業許可を取得しているわけではありません。建設業法では、比較的規模の小さい「軽微な建設工事」のみを請け負う場合は、許可が不要とされています。
具体的には、以下のような工事が「軽微な建設工事」に該当します。
- 建築一式工事以外:1件の請負代金が500万円(消費税込み)未満の工事
- 建築一式工事:1件の請負代金が1,500万円(消費税込み)未満の工事、または延べ面積が150㎡未満の木造住宅工事
ここで注意したいのは、「請負代金の額」には、注文者から提供される材料費や消費税も含まれる点です。
この制度により、建設業界には許可を持つ「建設業者」と、許可を持たずに軽微な工事のみを請け負う「建設業を営む者」が存在することになります。したがって、公表される「建設業者数」は、あくまで許可を取得している事業者の数であり、業界全体の事業者数を正確に反映しているわけではないのです。
経済が好調でリフォームや小規模な修繕工事の需要が増えると、許可を持たない小規模事業者や一人親方が活動しやすくなる可能性があります。逆に、景気が後退すると、こうした小規模な工事が減少し、事業者数にも影響を与えるかもしれません。
公共事業と建設業者数-財政の波が業界を動かす
建設業者数、特に許可業者数は、国の財政政策、とりわけ公共事業の動向に大きく左右されます。国や地方公共団体が発注する公共工事は、建設業界にとって巨大な市場であり、その規模は国の予算編成や経済対策によって変動します。
公共工事の入札に参加するためには、原則として経営事項審査(経審)を受けることが必須です。そして、この経営事項審査を受けるための大前提が、建設業の許可を取得していることなのです。
つまり、国の財政出動によって公共事業が増加すれば、建設需要が高まり、新たに許可を取得して公共工事市場への参入を目指す事業者が増える可能性があります。反対に、財政緊縮で公共事業が削減されれば、市場は縮小し、競争の激化から撤退や廃業を選ぶ事業者が増え、許可業者数の減少につながることも考えられます。このように、建設業者数は、国の財政や経済の動向を映す鏡のような側面を持っているのです。
厳しい許可要件が「業界の体力」を支える
建設業許可は、申請すれば誰でも簡単に取得できるものではありません。法律で定められた厳しい要件をクリアする必要があります。主な要件は以下の通りです。
- 経営業務の管理を適正に行うに足りる能力:適切な経営経験を持つ常勤役員等の設置や、社会保険への加入が求められます。
- 営業所ごとの営業所技術者等の設置:許可を受けたい業種に関する一定の資格や実務経験を持つ技術者を、営業所に専任で配置する必要があります。
- 誠実性:請負契約において不正な行為をするおそれが明らかでないことが求められます。
- 財産的基礎又は金銭的信用:工事契約を履行できるだけの財務的な体力があることが必要です。
特に、大規模な元請工事を担う「特定建設業」の許可を受けるには、自己資本額4,000万円以上など、さらに厳格な財産的要件が課せられます。これらの要件は、経済の浮き沈みに耐えうる経営基盤の安定した業者を選別するフィルターの役割も果たしており、業界全体の健全性を保つ上で極めて重要です。
また、許可取得後も、不正な手段で許可を得たり、営業停止処分に違反したりした場合には、許可が取り消されるなど厳しい監督処分が待っています。
まとめ
建設業者数は、単なる企業の数を示す数字ではありません。その背後には、国の財政や経済の大きなうねりと、建設業法という強固なルールが存在します。
公共事業の増減が業者数に影響を与える一方で、厳格な許可制度が事業者の質を担保し、業界全体の安定性と信頼性を支えています。建設業者数は、まさに日本経済と、それを支える法制度との深い関係を映し出す、興味深い指標と言えるのではないでしょうか。